Ultra Halloween 狂騒曲




   Trick or Treat!
   お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ!





                『Ultra Halloween 狂騒曲』







 ハローウィン当日、B6の拠点とも云えるバカサイユではそれぞれ仮装をしていた。B6のテーマは『童話・物語の女性キャラ』で何に扮するのかは永田作のクジによる、と云う事になっているが、定かではない。
 「シュン、ポペラ似合う〜。さっすがゴロちゃん、センスポペラ最高っ。ね、ツバサ」
 悟郎がティンカーベルの姿でぴょんぴょんと―草薙に注意されるも―跳ね回る。その隣では腕を組み、双眸を細めて雪の女王に扮した翼が
 「……ふむ、悪くはないな。この俺には劣るが、なかなかBeautifulに決まっているな」
 と満足げな表情をする。
 「ん、…………る」
 「クケー」
 おそらく「似合っている」と云っている斑目と、それに賛同しているトゲーはそれぞれ白雪姫と小人の姿だ。
 「つーか、瞬。それ、動けんのか?」
 一人七瀬を心配するのは草薙だが
 「動ける訳が無いだろう!」
 それもその筈で、七瀬が扮しているのは花魁。最初は違っていたのだが、翼と悟郎のセレクト(ちょっかい)に仙道が面白がったおかげでかなりゴージャス(=重い)になり、動くのも一苦労なのだ。
 「キッシッシッ。なら俺様が動ける様にしてやるゼ」
 不思議の国のアリス(ただし黒髪)の姿で、それに似つかわしくない言動はやはりと云うべきか仙道で、七瀬に悪戯を仕掛けようとしている。
 「仙道君が一人で着付けしてくれるなら構わないよ」
 それをやんわりと止めるのは普段はこのバカサイユに足を踏み入れる事をしない教師の鳳だ。
 「おい七瀬、暴れるな。崩れんだろうが」
 同じく七瀬が後ろに倒れない様に支えているのは教師の九影で、二人ともいつものスーツ姿ではなく着物姿―九影は動きやすいようになのか袴姿―をしている。
 ちなみに今日のハローウィンの仮装は自由だが、必ずホールでお披露目をする決まりとなっている。
 悟郎が一人制服でいる草薙―クジはひいたが―に
 「ハッジメ〜♪ ハジメはまだ着替えないの?」
 「俺? 俺は―」
 「この俺の用意したperfectな衣装が着れない、なんて事はないだろうな? 一?」
 参加しないと云うつもりだった草薙の言葉を遮る翼に、草薙は視線を逸らしながら
 「どう見ても、俺に、似合うわけないだろッ。んなカッコ」
 「そんなカッコって、ひどいよハジメ〜。ゴロちゃんポペラ悲し〜」
 ふぇ〜んと泣き真似をする悟郎に、優しく鳳が加勢する。
 「大丈夫だよ、風門寺君。草薙君は優しいから参加してくれるよ。ね、草薙君?」
 「え? あ、えーと……」
 悟郎だけならまだしも、其処に鳳が加わるとなると簡単に逃げる事が出来ない。ましてやみんなが仮装する中ただ一人しないと云うのもナシだろう。
 こうなったら力業で抜け出そうか? と云う考えが草薙の脳裏に閃く。が、
 「っぅっわッ、な?!」
 突然草薙の視界が変わった。それもその筈で、肩に草薙を担いだ九影が奥の部屋へと向かっていたが思い出し様に振り向き
 「お前ら先に行って、南やキヌさん達に七瀬と此奴は遅れると云っとけ。七瀬はそれに慣れたらトリさんと行け。此奴は俺が連れてくから安心しろ」
 「マジかせんせ?! ちょ、下ろせってばッ」
 「うだうだうるせぇ。諦めて大人しく参加しろ。ほれ、とっとと着替えるぞ」
 暴れる草薙をものともせず云うだけ云って、九影はバタンと奥の部屋のドアを閉める。それを見送るしか無かったB6の面々に少し苦笑を浮かべて鳳が
 「草薙君は九影先生に任せて、南先生達に伝えてくれるかな?」
 「ふむ、こうなってはそれしかないだろうな。行くぞ、永田」
 「はい、翼様。皆さんも足下に気を付けて下さい」
 いつも何処に控えているのかは知らないが、翼の呼びかけに直ぐに対応できるあたり流石と云うべきか。そして永田もまた巻き込まれなのか翼の命令なのかは知らないが、いつものスーツ姿ではない。
 「は〜い♪ センセ、どんな格好なのかな〜? ゴロちゃんポペラ楽しみ〜」
 「あ〜ん? ブチャはブチャだろォ!?」
 「……の…ど…(動くの面倒)」
 「トゲー」
 


                *** *** ***
 


 「二人とも、どんな格好なのかしら? んふふ、楽しみだわ」
 「シュンは〜、ゴロちゃんとツバサがプロデュースしたんだよ、セ〜ンセッ♪」
 「そうなの? じゃあ、一君は?」
 「九影だ。連れてくると云っていたが……遅いな」
 「つーか、ホントに来ンのかァ?」
 「………ら……だと……う(九影先生なら大丈夫だと思う)」
 「クケー」
 ホール全体が見渡せる特等席=特設舞台(真壁特製)の上を占拠しているのは先にバカサイユを出た四人に彼らの担任である南。そして
 「鳳先生と九影君はどうしたんでしょうね〜?」
 「ってゆーか、九影先生にきっちり抑えて貰わないとって、暴れないで下さいよ葛城さん」
 「えーい、放せ真田。南ちゃ〜ん助けて〜」
 「この害虫に情けは要りません。貴方も、無闇にエサを与えない様に」
 エサって何? と思っている南の同僚である衣笠・真田・葛城・二階堂である。教師陣は立場上もあり仮装ではなく和装と云う事らしく全員着物であるが、葛城だけはさらに簀巻きにされている。
 「ほにょ? 葛城せんせ〜どーしたの?」
 「フン、おっさんの事だ。またgambleだろう? まったく、進歩のない大人だな」
 「あんだとこの―」
 「ミャ〜」
 葛城の声を遮ったのは間延びした猫の鳴き声で、ちょこんと葛城の前に座って翼をはじめとする面々を見上げている。だが、一匹ではない。よくよく見るとホールの入り口からこの舞台まで、ちょこん、ちょこんと猫達が……。
 「なんで、猫が……?」
 「……きた」
 斑目の小さな呟きと同時に、急にホールの入り口が騒がしくなった。
 ザワッ、ざわざわ……
 音が、波のように押し寄せてくる。音だけではない、人もまた然りで、道が開ける。そしてホール中の注目を集めるその姿があった。
 「すっご〜い、キレー……」
 「でしょでしょ♪ ゴロちゃんとツバサ、二人でポペラ頑張ったんだよ〜♪」
 「うえ?! あれ、七瀬か?」
 「ふふ、その様ですね。ああ、九影君と草薙君もいますよ」
 「朝から鳳先生と九影先生が見あたらない理由が分かりましたよ」
 鳳に手を取られるように中央をゆっくりと歩いてくるのは七瀬。その後ろを九影と草薙が並んで来る(七瀬が倒れた場合の為)が、七瀬が仙道を視界に捉えるとホール中に響き渡る声で
 「仙道! 貴様、殺すッ」
 「今回は私もだが、九影先生も草薙君も止めないから大丈夫。好きにするといいよ」
 バカサイユからこのホールまで、多少の距離はあるかも知れないが学校である。きちんと整備されている。だが水が撒かれているのはまだしも、ビー玉や蒟蒻が敷き詰められていたり、巧妙な落とし穴におもちゃの矢が飛んでくる仕掛けがあったりと、意図的な悪戯が仕掛けられていた。
 「しっかしまぁ……、よくもあんだけ仕掛けられるもんだな」
 「清春だからな……。ま、無事に着けて良かったよ」
 半ば呆れた様に少し離れて、七瀬に合わせてゆっくりと九影と並んで歩いる草薙の姿はこれまた和装だが、紅系を基調とした―大学の卒業式とかで見られる様な―袴姿である。草薙が頑として「スカートはパス! 絶対パス! 彼奴等が暴れたら抑えられないし」等と云い張って、結果妥協案的措置となったのだ。
 「おう。後で猫共に礼云っといてくれ」
 実の所、学院内を彷徨いている猫達に道々で仕掛けられた場所を教えて貰ったおかげで害を被らなくて済んだのだ。
 「なァ〜んだ、引っ掛からなかったのかヨ?!」
 「それは仙道君と違って日頃の行いが良いからでしょうね? ふふ」
 「諸手をあげて賛同は出来ませんが……。しかし……危なっかしいですね」
 ゆっくりだがふらつき加減に歩くその様は倒れそうである。
 「これで揃ったから担任、もういいだろう?」
 「え〜? みんなの写真撮りたいのに〜」
 「写真? なぁに? センセ、ゴロちゃん達の写真撮ってくれるの?」
 「勿論よ。可愛く撮ってあげる」
 「わ〜いv ゴロちゃん、B6のみんなと一緒に写る♪ いいでしょツバサ。あ、センセーもだよ」
 「……ん……い(写真、嫌い)」
 「マ〜イスイートハーニィー♪ 俺と一緒に写って頂けるかな? 勿論、南ちゃんは特等席で、ね」
 いつの間にか簀巻きから抜けて南の手を取る葛城。勿論エコー付である。
 「このホスト崩れがッ。その手を放せ!」
 「うわっ、葛城さんいつの間に?!」
 「ふぅ…、流石にしぶといですね」
 「ふふ。葛城君は仙道君と一緒でやんちゃですから」
 「こンなのと一緒にすンなってェーの、オバケ!」
 「邪魔者は気にしないで二人だけの―」
 ガッツンッ……きゅう、バタン。
 いつの間にか―何処から出したのか出席簿を手にした―鳳が倒れた葛城に冷たい視線を向けていたが、驚いている南に貴公子の笑みで
 「すまなかったね。この有害可燃物は私と九影先生とで処理してくるよ」
 「おう、任せろ」
 「は、はい……?(ゆ、有害可燃物?) じゃなくて、後で二人の写真も撮らせて下さい」
 「勿論。南先生も一緒に、だよね?」
 「え?」
 にっこりと云われたその一言で、B6&T6(葛城を除いて)の撮影会と化したのは云うまでもない。
 


                *** *** ***
 


 「つっかれた〜。これ以上はマジ勘弁だな……」
 行きと同じく、ホールから七瀬と鳳と九影とで―また仙道が悪戯を仕掛けているかもしれない&着替えの都合上―先にバカサイユに戻ってきた。
 奥で先に着替えをしている七瀬を待つ草薙はソファに投げ出す様に横になる。まだホールではあの賑わいが続いているのだろう。翼や悟郎達の機嫌が良いし、基本的に捻くれてはいるが楽しい事は嫌いではない(……筈だ)。
 「暫くは戻ってこねーかな?」
 朝から着替えだ何だとバタバタして、着慣れない服&無礼講的イベント(B6的解釈)のせいなのかいつも以上にテンション高く周りを巻き込むB6の世話もあって、普段以上に疲れた気がする。知らずため息がこぼれる。
 「疲れたか?」
 長身を折り曲げる様に覗き込んでくる九影。草薙はだるそうに身体を起こす。
 「……せんせ? 瞬は、いー…のか?」
 「トリさんに預けた。ちょっくらホールの様子を見てくるかと思ってよ。……お前も眠そうだな」
 「………ん〜…すこ、し? でも、だいじょーぶだ」
 眠い、と云うほど眠い訳ではない。それに、まだ終わってはいないから気は抜けない(悟郎とか清春とか翼とか瑞希とか)。草薙は背を逸らして躯を伸ばす。
 「ん〜〜……、んっ」
 じっとその様を見ている九影の視線に気付いて九影を見上げる。何かを探る様な視線に草薙が「何だ?」と首を傾げると忌々しそうに息を吐き出す。
 不機嫌。あからさまに不機嫌。だがその理由が分からない。
 「……………んでもねぇ。じゃ、行くわ」
 「ちょ、待っ―」
 ひらっと手を振り背を向ける九影に手を伸ばす。普段なら、特に問題無かったのだろうがしかし、ソファ越しの行動はソファを倒す羽目になり――
 「?! ッ―」
 九影は引っ張られる様に、そして辛うじての処でソファと草薙を支える。
 「――っぶねぇだろーが! この馬鹿ッ」
 「わ、悪いっ」
 離れようとする草薙を抱きかかえる様におさえ
 「こら、動くな。支えにくい」
 「……………ぅ、ん。ごめ、」
 コツ、とソファが床に着き、不安定さが無くなると九影も草薙も息とともに力を抜いて離れる。
 「ったく、急に危ねぇだろーが」
 「けど、それは―」
 「まぁ……、俺が悪いんだが、な」
 草薙の反論よりも九影の謝罪の方が早かった。参った様に首の後ろに手を回して、云いにくそうに
 「………お前が気にしなくても、こっちが気になるってぇだけなんだが……あれだ。今日ぐらいは、適当な処で力抜けや。彼奴等全員相手にしてたらへたばっちまうぞ」
 「や、でもそんな事したらメチャクチャになっから」
 「そぅ……なんだがな。……………彼奴等はお前がいるから我が侭が云える。けど、お前はどうだ?」
 「え……?」
 不思議そうに、分からないと云う表情で九影を見つめる草薙。九影は口を閉じたまま草薙の出を窺う。相手の我が侭も甘えも、そうだと認識していないのかそれとも、当たり前だとでも思っているのだろう。だからそんな事考えた事がないし、必要も無い。
 九影にしてみれば、アレだけ個性の強いB6相手によく面倒見ていられるな、と云うのがある。草薙の性格故なのか疲れる事はあっても、岡崎や例の一件に関する事を除き相手に対して「キレル」事がない。
 校内で顔を合わせる度にキレル草薙。これに関してはB6の連中も静観を決め込んでいるらしい。
 (…俺にもどぅする事もできねぇモンだからなぁ)
 それに、と思う。例の一件で草薙が人を信用しなくなり、甘える事も頼る事もしなくなった様にも思う。だが少しでも誰かにそれを、俺じゃなくても出来る様になればいいと思ってる。
 「あ、のさ……。俺、彼奴等には我が侭とかそんなの云えねーけど、さ。……………」
 じっと俯く様に考えて難しい顔をしていた草薙が、重そうに口を開くがしかし、直ぐに黙り込む。仲間の事もあるから云いにくいんだろう、と単純に思ったのだがきょろっと周囲を確認している様子から違うらしい。
 「草薙?」
 ホールで騒いでいる他のメンバーもおそらくまだ来ないだろうし、奥の部屋から七瀬と鳳の二人が出てこない事を確認し、草薙は深呼吸の様な素振りを見せて
 「……せんせぇは、ちょっと、違う」
 「俺?」
 「…う、ん。B6とは、違う。多分、俺、せんせぇには、甘えてる、気が…する……。よく、わ…っかんねぇ…けど」
 普段口にしない事を口にするのは恥ずかしいのだろう。俯いて、だんだんと小さくなる声は聞き取るのがやっとだ。単語だけ、と云ってもいい草薙の台詞に―確かにさっきまで、誰かに甘えるなりなんなり出来る様になれば良いと思っていたが―九影は反応出来なかった。寧ろその言葉は、普段眠らせている感情を呼び起こさせて動揺した。
 「……そぅ……か」
 俯いていた草薙に動揺を悟られる事はなかったが、僅かに赤みの残る少し恥ずかしげな表情で見上げられ
 「……うん。…その、あ、りが…と、な?」
 はにかんだ笑みを見せられれば、揺らいだ均衡を崩すには十分で――
 (〜〜〜っの、馬鹿が!)
 「? せ、ッ?! ンッ、んぅ……ん」
 九影は無防備に自分を見上げる草薙を引き上げる様に抱き寄せ、その口を己ので塞ぐ。
 「ん、ふっぅ……ん、」
 力の抜けていく躯を後頭部と腰に腕を回して支える。縋り付く様に伸ばされた手が袖を引き、九影は口づけを解いて抱き寄せる。
 「無駄に煽んな。煽られたこっちは堪んねぇからよ」
 その気がなくて煽られるのが一番質が悪く、煽られた方は何も出来ない。ましてやこれ以上煽られたら取り返しがつかなくなる。
 「あ、お……って、そ……」
 もごもごと九影の肩口で文句らしき事を云っているが、云われたことが恥ずかしいのか最後まで云えないらしくぎゅっと抱きついてくる。これもこれで煽られてる気がしねぇでもねぇなぁと思いつつ、その背をあやし宥めるようにぽんぽんと叩く。
 「落ち着いたらホールに来い。ハローウィンだし、誰かから菓子でもねだれ」
 ぽん、と最後頭に手を乗せて離れようとしたが、くいっと反対に引っ張られる。
 「草薙?」
 「あ、のさ……。せんせぇに、ねだっても、いい?」
 俯いたまま、それでも髪の間から覗く草薙の耳はこれ以上はないくらい紅く染まっている。
 「何を――」
 だ? と云う筈だった言葉は、触れるだけの稚拙なキスに止められて囁くような声が触れる。
 「お菓子じゃなくて、………たろぉさん」
 九影はグッと拳を握り、このまま事に及びそうな衝動を堪える。はっきり云って学校でなければ正直耐えられたか、だ。
 「一」
 「……ん」
 情欲の滲む九影の声に、草薙は小さく答える。
 「煽るなって云ったよな、俺ぁ。今日はこのまま大人しく帰れ」
 そうでもしねぇとこのまま攫うように連れ帰って、メチャクチャに己の欲しいままに抱いてしまいそうで、
 「手加減出来ねぇ」
 (本気で、お前を抱き潰すことになる)
 その苦痛を滲ませるような、低く、掠れた声に草薙の躯は震えた。それは軽い恐怖に似ているがそれでも、「欲しい」と思った気持ちを止めることなど出来なくて
 「う、ん……。それでも、欲しい」
 はっきりと言葉にすると、色と理性が鬩ぎ合う、しかし獰猛な光を宿した眸に囚われる。ドクリと心臓が跳ねて、心臓だけでなく、躯中がドクドクと早鐘を打ち瞬く間に熱に支配される。
 「……たろぉさん、好き」
 器用なくせに不器用な処も、優しいくせにそれを現さない処も、聞いてないようで人の話を聞いてる処も全部――好き。
 初めてキスするような、そんな不器用なキスを九影に送る。それが今の草薙の精一杯――
 「……………ったく、お前ぇは」
 (そんな表情すんな)
 切なさに、恋情を含んだ表情は危ういほどで、九影は返事を返すように眦に唇を寄せる。唇に触れたら戻れないから、でもその感触を確かめたくて親指の腹でやんわりとなぞる。
 「……終わったら、攫いに来る」
 「ん、」
 触れていた手が離れる。それだけなのに寂しい気がして、それが表情に出てたのだろう九影が
 「んな顔してっと、詮索されっぞ」
 わしゃっと髪を乱す。
 「え? ちょっ、わっ…」
 九影の手から逃れようとしてそのまま後ろに倒れこむ。一瞬きょとんとした表情を浮かべる草薙に九影は肩を揺らし、小さく「ちくしょー」と草薙は呟く。
 「後で、な」
 「……おぅ」
 ふてくされ気味だが、それでも返事を返す辺り素直だと思いながら九影はバカサイユを出る。後に残された草薙は倒れ込んだソファの上で小さく、本当に小さく呟く。
 「ど、……しよ……。いー…んだ…け…ど………」
 両腕で隠した顔は、紅く染まっていた――
       





   Trick or Treat……?
   お菓子よりも、貴方がいい……な




END

THANKS

和泉水鶏様