Ultra Halloween 狂騒曲




ずっと長い間 あいつより見てきた
なのに
なんて思うあたり かなり重症なんだ



−Ultra Halloween 狂騒曲−



卒業式から3日。学園へ顔を出すのは早すぎだろう、と自分でも笑いながら通いなれた道を歩く。
校門前に着くと、運悪くオバケと遭遇。
逃げようかとも思ったが、そうすると目的地には遠回りになってしまう。深くため息をつき、仕方なく足を進めた。
むこうも気付いたのか、一瞬だけ足を止めたが、また同じように歩き始めた。
「どうしたんですか?清春君。君が学園に来るなんて…」
「オバケには関係ねェッてのー!てゆーかァ、かわいーい教え子が来たっていうのにィ、先生ひどーい」
「…相変わらずですね」
「ンなすぐに変わるかよ!キシシッ!」
心底驚いたように言われ、いつものような会話をし、いつもように笑ってやった。
今はまだ、コレが日常。無くなるなんて実感が湧かない。それは、自分がどれだけの時間をここで過ごしたかを知らされるようで、なんとなく悔しかった。
あんなにも嫌がった、勉強をする場所、だと言うのに。まあ結局、3年間のうちで真面目に勉強したのは僅かだったけれど。
俺はオバケに背を向けてバカサイユに向かう。
「何もせずに帰るんですよ」
その後に小さな声で、さよなら、と聞こえた気がしたが、振り返っても既に姿はなかった。


バカサイユにはもちろんのごとく人はいない。それが正しい。
俺たちの居場所はもうここではないのだから。
いつもでは考えられないほど静かなそこに、同じような静けさで扉を開けた。キイ、と聞いたことのない音が響く。
暫く、ぼーっと空っぽに近い空間を眺める。
「…らしくねェ」
そう呟いてから、すぐに中に入って目当てであった忘れ物を探しだす。
これ、というわけでは無いが、何かが自分に足りない気がする。どこで何をしていても気になる。その内イライラしてきて、学園に行けば解るんじゃないかとここまで来た。
なのに、止まらない苛立ち。
訳が解らずに、壁を伝ってずるずるとなだれ落ちる。
ふと視線を床に移せば、紙切れが無造作に捨てられていた。手を伸ばして中を見れば、そこには明らかに自分の字で、悪戯用のメモがしてあった。それをぼんやりと見つめていると、急に閉めたはずの扉が開き、大して驚くこともなく反射的にそちらを向く。
「なんだ、仙道もいたのか」
けれど姿を捉えて、そこで初めて驚いた。否、焦ったの方が正解かもしれない。
「やめろ、見るな!気持ち悪いぞ!」
目を見開いて相手を凝視すればそりゃおかしく思うだろうが、自分でも気付かないうちにそうしていた。
「んー?ナナちゃんはオレ様に見られて照れたんですかァ?」
「そんな訳ないだろう!っと、ここだったか?」
「つかテメェ何しに来たんだよ?」
「あー…」
「オイ、聞いてんのか?」
「ん、んー?」
戯言は少なめに、辺りをきょろきょろしているナナを見る。俺の言葉もかやの外のようで、ソファーの裏やマーライオンの口の中覗きながら、時折考えるような素振り。
なんだこいつも忘れ物か、と頭の隅で笑って。
手にしていたメモをもう一度見ると、そこには全てと言っていいほど、ナナに仕掛けた悪戯ばかりだった。軽く目を閉じれば、走馬灯のように脳内のスクリーンに映像が映し出された。

『きゃ、ちょっと、何するの!?水浸しじゃないっ!』
『ちょーっとはイイ女になったんじゃねーのォ?』
『おま、仙道!先生、大丈夫か?これで拭け』
『なんだァ、ナナ!随分と優しくすンだな!ホラよっと!』
『う、わっ!この…仙道…!!殺すぞ!』
『水も滴る〜!お似合いだなァ、お二人さん!』

お似合い。
自分自身の言葉に、結構なダメージを受けたこともあったな、なんて。
今になっても解らないその感情が、あほらしくて仕方ない。
「あ、」
その声で現実に引き戻される。
手にはベースの糸。
「…貧乏くせェ」
「だ、黙れ!コレだけは特別なんだ!何があっても捨てられるか!」
それと、今年のバレンタインにブチャから貰ったチョコ…とは言えないがそれっぽい物が入っていた、包装紙。
大事そうにそれをポケットの中に仕舞うナナを見れば、ふと笑いが込み上げてきた。
自分も人に言えないくらい鈍感だったのだと気付かされて。
「ったく…俺はもう帰るが、お前も暗くならないうちに帰れよ」
「心配してンのかよ?ナナちゃんはオレ様のことが大好きで仕方ないもんな!」
「この馬鹿が!呆れてモノも言えん。とにかく、俺は帰るからな!」
「どーぞ?」
「じゃあ、な」
ちらりと一度だけこちらを向き、後ろ手で扉を閉めていった。
パタンと閉まるのを確認してから立ち上がる。
代わりに窓を開けて外を見れば、満開の桜が緩やかな風に揺れ、いかにも春を象徴しているよう。
遠くでナナとブチャが笑いながら歩いている姿が見える。
それはとても幸せそうなのに、酷く色褪せているようだった。
「なァにが、じゃあな、だ…馬鹿ナナ」
手にしていたメモをクシャリと潰し、びりびりに破く。それを風に乗せれば、桜吹雪と混じって見えなくなる。
まるで溶け込むように、埋まっていくように。
包装紙を見て緩んだ口元に、やっと教えられた忘れ物。いや、忘れたのではなかった。
むしろ貰っていなかっただけ。
気持ちに整理をつける、今世紀最大の殺し文句を。




同じ言葉が返ってこない
そんなことに勝てなかったのは 自分の弱さだと知っている
だから 最初で最後の諦める悪戯
だってほら 甘いお菓子はもらってしまったから


返したくても、返す相手は
もう遠い先


(君の最後の優しさに、僕はそっとありがとうを言うから)




END

THANKS

飛灯様