14.放課後の過ごし方いきなりだが、 「放課後は聖帝の教師陣にとって戦争だ。」 と言ったのは新任で入ってきた南の言葉。 それを聞いて「確かに」と相槌を打ったのは落研コンビこと真田と二階堂。 初めて見た人はそのインパクトにちょっと引いてしまう事があるとか?ないとか。 とにかく南は引く事はなく、感心しただけだった(それも大物だ) その戦争と言われる所以は聖帝の天使、衣笠にあるのだ。 戦争の始まりの合図は衣笠がノートパソコンの電源を落とし、閉じた所から始まる。 そして今日も戦争の火蓋が切って落とされたのだ。 (そろそろ切りがいいですね。) 腕時計を見ると午後五時過ぎ。 各々の仕事が終ると帰ってゆく教師陣は自主的に残業をしたり、しなかったりでまちまちだ。 一般のサラリーマンで言うと定時の時刻、衣笠は仕事が一段落してすることが無くなりかえる準備を始めた。 本やノートは閉じられ、必要なものは鞄の中へ、そうでない物は机の棚にしまう。 そして最期にノートパソコンの電源を切り、ソレを閉じる。 その動作に反応した男がすかさず衣笠の後ろに立った。 「きぃ〜ぬがさ先生っ!今日こそアフター5をこのスーパーティーチャー銀児と過ごしてくださいっ!!!」 「葛城君ですか。うーん・・・確かにこの後の用事はありませんが・・・。」 「何かご不満でも!!??」 「ふふっ、不満だなんてそんな事。あげていたらきりがありませんよ〜?」 「がぁん・・・ギンちゃんショック。」 衣笠が口元に手をあてクスクス笑っている。 (まぁ、今日は自宅で買ったっきり(貰った?)溜まっている洋書を読み漁ろうと思っていたんですけどね〜まぁ、たまには・・・) 「どうしましょうかねぇ・・・。」 「衣笠先生、借金まみれの居候が迷惑をかけたね。」 「鳳先生・・・?」 小首を傾げながら、鳳の方を見る。鳳は葛城の首根っこを掴み優しく微笑んでいる。 「この有害物質は私の家を掃除するという大事な役目があるんだ。葛城先生、忘れては困るよ。」 「ひぃ、お、鳳様・・・。」 「君が昨晩散らかした部屋を綺麗にしてもらおうか?」 「は、はいぃ〜・・・。」 「鳳君、いつもありがとうございます。」 お礼を言うのも何だか変な感じではあるが、それもいつものこと。 ただ今日はいつもより残念そうな鳳の姿があった。 「残念だな。今日は衣笠先生が用事なさそうだったので、お食事に誘おうと思っていたんですけど。」 「そうだったんですか?鳳君のお誘いを受けれないなんて残念ですね。でも、お誘いはどうして?」 「いや、僕の学生時代の後輩がレストランのシェフでね。そこのスープがとても美味しかったので。衣笠先生はお好きでしたよね?」 「えぇ、好物です。それは現金ではありますけど、ますます残念です。また宜しければ誘ってくださいね。」 「勿論。では、失礼します。」 鳳は葛城の首根っこをつかんだまま引きずり去っていった。 衣笠の後ろから慌ただしい音が聞こえ、振り返る。 「真田先生。まだですか?」 「すいません、もうちょっとで荷物片付け終わりますから!」 「全く、今日は期待の新人が出ている寄席だというのに。もっと有効に時間を使いなさい。」 「はい〜。おっ、終りました。急ぎましょう。」 「廊下は走らない。先生がそれでどうします。」 (楽しそうですね〜。僕も何処かへ行きましょうか・・・) ドタドタドタ・・・と複数の人間が廊下を走ってきている音が聞こえてきた。 鞄の整理をしていた南が手を止めて音のしている方を見ている。 衣笠も同じく職員室のドアを見ている。 走ってくる音は段々近づいてくる。そして音はついに職員室の前で止まった。 あれ?と思ったのも束の間、扉は勢いよく開いた。 「おい、担任!いるか?」 「真壁君、どうしました?そんなに慌てて。」 「担任に瑞希を連れてきてやった。それと清春が暴れている。どうする担任?」 「えっ…清春くんが?」 南は困った表情で瑞希をみた。瑞希はこくりこくりと眠りこけている。 「南先生は今日、斑目くんと用事ですか?」 「はい…でも担任として、迷惑をかけている清春くんを見過ごすわけにも…」 「では清春くんは僕が何とかしましょう。でも斑目くんの用事は南先生でなければ出来ませんし。」 南は「じゃあ…」と言いかけて頭をふった。 「駄目です衣笠先生にそんなご迷惑は…」 かけれませんと言い切る前に「南先生」と遮った。 「適材適所とはまた違いますが、言いましたよね?斑目くんの方は僕には出来ません。2つの事を1人で出来ないのも当然です。だから僕が行きましょう、幸いあの清春くんも僕にしてみれば子猫ちゃんですから〜」 ニコッと笑顔を見せられては南もこれ以上言葉も出ず、素直にお願いしたのだった。 清春は神出鬼没に現れているらしく、衣笠は校庭近くのベンチに座っていた。 (久々の定時上がりでしたが、まぁいいでしょう。それにこうして無防備なフリをしていれば…) 衣笠の思惑どおり、僅かな物音と気配が植木の向こうから感じられる。 「そこですね!」 衣笠がすかさず植木にバレーボールを投げ入れると、バシッという音の後清春が植木から現れた。 「何すんだオバケェ!」 「清春くんこそ何をしようとしていたんですかねぇ〜」 ニッコリと微笑みながら衣笠が清春のそばへ近づく。 体の後ろに隠されていた水鉄砲を奪いそれを確認した。 「まだ入ってますね。」 「何すんだ!返せよ!」 「またイタズラを繰り返す清春くんに返せませんよ?これは没収です。明日職員室に取りに来なさい。」 それから…と話を続けようとしたその時だった。うしろから声をかけられ振り向いた。 「キヌさん?」 「九影くん…」 衣笠が僅かに気を緩めたその時だった。 清春がその場を駆け出しすぐ側にあった水飲み場の蛇口をひねった。 「ヒャハハハ!くらえオバケェ!」 蛇口の口を指で抑え、水が飛び散る。 衣笠は思わず目を閉じたが、思っていた衝撃は無かった。 「九影くん…!」 九影が衣笠を抱きしめて庇っていてくれたのだ。 残念ながら足元は濡れたが、体は全く濡れてない。 ひとしきり水をかけて満足した清春は帰っていった。 「何でこんな事したんですか、この季節に濡れたら風邪をひきますよ」 「キヌさんより俺の方が頑丈ですよ。キヌさんが濡れるよりずっとましです。」 「全く…」と言いながら九影の手を取る。 「保健室にタオルがありますから体拭きましょう。あと…ありがとうございます…」 そっぽを向きながら言った衣笠は耳まで赤くしている。 そんな衣笠がかわいく感じて手を握り返た。 「じゃあ、今日のキヌさんのアフター5は俺のものって事で。」 「っ……お好きにどうぞ」 放課後の戦争は今日はひとまず九影の勝利に終わった。 END THANKS
玉城ゆら様:NoTitle
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